BORG125SDモニターレポート・東谷様(2)
機材は表現のための道具。最終目的は写真表現にあり、機材はその手段にすぎない。一眼レフ、デジボーグ、はたまた天体望遠鏡。野鳥を撮影するための手段はいろいろあり、その手段である道具をあれこれといじり回すのもそれ自体なかなか楽しいことではあるが、道具いじりが目的になっては意味がない。しかし、表現のための道具である以上、より良い表現のために必要な道具の性能にはとことん拘りたい。

皆さん、こんにちは。BORG 125SDモニターの東谷です。前回に引き続き第2回目のレポートとなります。125SDの対物レンズの性能が素晴らしいものであることは私の第1回目のレポートでも、また私と同時にモニターをされている斎木さんのモニターレポートでも十分明らかだと思います。今回は、前回のレポートの最後に記載しましたとおり、BORG 125SDを野鳥撮影に用いた際の操作性を中心にレポートしたいと思います。
125SDは言うまでもなく、天体望遠鏡のカテゴリーに分類されます。本来的目的は天体の観察にあり撮影用レンズとして用いることは副次的な使用方法といえます。もっとも、天体写真の撮影においては野鳥を初めとする生物の撮影とは異なり、撮影対象を比較的じっくりと導入することができます。その意味で撮影における操作性をそれほど気にする必要はないのかもしれません。被写体が野鳥となると話は全く変わってきます。生き物ですから当然に動き回ります。翼があるので空も飛びます。被写体をファインダーに導入し、ピントを合わせ、シャッターを切る。この一連の動作をスムーズに行い得なければ野鳥の撮影はままなりません。とりわけ、野鳥の飛翔撮影においては操作性の差が写真の歩留りを大きく左右することになります。BORG 125SDにはもちろんオートフォーカス機能などついていません。フォーカス合わせは完全マニュアルとなりますが、ドローチューブを使おうとヘリコイドを使おうとフォーカス操作によってカメラ位置が前後に移動します。これは天体望遠鏡の宿命ともいえます。一眼用レンズとの操作性の違いがネックとなって野鳥の生き生きとした営みのうちの多くの部分の撮影をあきらめざるを得なくなるのであれば、たとえ対物レンズの性能がどれだけ高くとも野鳥撮影には不向きとなってしまいます。これはデジボーグにもいえることかもしれません。冒頭に記載しましたとおり、機材は表現のための道具である以上、あらゆる表現に対応することが求められるのだと考えます。

前回のレポートではカメラにNikon D300を使いました。今回はカメラをCanonの40Dに変更して撮影を行なっています。撮影における操作性の一つにピント合わせのしやすさがありますが、F6.0という明るい対物レンズの恩恵を生かすためにNikon-EOS電子マウントアダプタなるものを今回使ってみました。基本的にはNikonのFマウント用のレンズをEOSボディで使うためのマウント変換アダプタですが、マウントアダプタ自体に電子接点が設けられており、シャッターを半押ししながらマニュアルフォーカスでピント合わせを行なうと合焦時に電子音が鳴ります。対物レンズが暗いとフォーカスエイドも効かないため電子マウントアダプタも宝の持ち腐れとなりますが、F6.0の明るさなら電子マウントアダプタの上記機能をフルに活用できます。因みに、この電子マウントアダプタには50mm/F1.8というダミー情報が入っています。Exif情報ではレンズ焦点距離が50mm、開放F値がF1.8と出ますがあくまでもダミー情報ですので無視してください。


潮の引いた浜辺にいたシロチドリです。浜辺を忙しく歩き回るのでフォーカス合わせもなかなか大変です。電子マウントアダプタを用いた合焦音を頼りにしっかりとピント合わせを行ない、すかさず構図を少し横にずらしてシャッターを切ります。前後のボケは極めて大きく出ます。


こちらは浜辺のミヤコドリです。顔の黒いミヤコドリはなかなか目が出にくく、完全マニュアルフォーカスでは赤い目の中心の黒い瞳部分まで解像させることはなかなか難しいのですが、しっかりと合焦しています。電子マウントアダプタはなかなか効果的のようです。


もう一枚、ミヤコドリのとまりものを掲載させていただきます。逆光下で目は出ませんでしたが雰囲気は悪くありません。浜辺での撮影ではできるだけ三脚を低く構えます。レンズをできるだけ地面と平行に低く構えることによって前後のボケがより生きてきます。口径の大きい125SDのようなレンズではできるだけ前後のボケを生かして撮影したいところです。

今回、海に出かけて行ったメインの目的はBORG 125SDでの飛翔撮影にあります。私は普段、ツバメのような複雑な飛び方をする鳥の飛翔撮影ではマニュアルフォーカスを使い、海辺でのシギ・チドリ類の群れの飛翔撮影ではオートフォーカスをメインに使います(マニュアルでのピント補正ももちろん併用します)。ハマシギなどが群れで通過するのは一瞬で、飛行速度もとても速いです。飛翔する群れを発見した時の鳥との距離がたまたまレンズのピント位置と近ければマニュアルフォーカスでも導入は比較的しやすいですが、レンズのピント位置が鳥との距離と大きくずれている場合はピントリングを大きく回さなければそもそもファインダーで野鳥を確認できず、チャンスを逃してしまうことが多くなります。オートフォーカスレンズの場合、正しく目的の位置にレンズを向けることさえできれば、シャッター半押しでレンズを一気に駆動させることができますので、ワンチャンスを逃す確率は低くなります。BORG 125SDではピント操作をドローチューブもしくはヘリコイドで行なうことになりますが、現在のピント位置と野鳥との距離が大きく離れている場合に、一気にフォーカス合わせをするのはなかなか大変です。前掲したシロチドリの撮影のような場面では鳥との距離がとても近いですが、その撮影直後に比較的距離のある位置に野鳥の群れが飛んできた時にはピント合わせをしている間に群れが通過しきってしまいます。このため、ピント位置を近くに変えた時には、その後すぐに飛翔に備えてある程度の距離にピント位置を戻しておく下準備が大切になります。また、フォーカス操作と同時に、野鳥のファインダーへの導入にも手こずっていたのでは飛翔撮影はまったくままなりません。少なくともファインダーへの導入という撮影の最初の第一歩がスムーズに行なえることは必須となってきます。このためには照準器の利用は欠かせないと思います。また、単に鏡筒に照準器を取り付けているだけでは飛翔は追いきれません。ファインダーを右目で覗いた時に左目でちょうど照準器が見れる位置に照準器を取り付けておくことが飛翔撮影では極めて大切になってきます。


ミヤコドリの単独での飛翔です。干潮時に現れた浅瀬で貝を採餌中に時々飛んで位置を変える個体を狙いました。比較的距離は近く、飛んで移動する距離も短いのでピント合わせはそれほど難しくはありませんでした。これぐらいだと黒目部分にもしっかりと合焦させられます。

貝をくわえての飛翔です。砂のなかから貝を突っ付きだしたところ、近くにいた別のミヤコドリやユリカモメに餌を横取りされそうになって、あわてて逃げた時のワンシーンです。最初からカメラを縦位置に構えています。海での撮影では水平線と空を入れることで雰囲気がぐっと変わってきます。このため縦位置をよく使います。


二羽での飛翔シーンです。ピントは奥の個体にあります。SS1/500ですが、羽の動きが少し出ています。


こちらは飛翔というよりも飛び出しシーンです。右下にいる別の個体の少し驚いたような表情が面白いです。飛び出しのタイミングを予期できるかがポイントになりますが、よく観察していると飛び出す前に少し小走りするのがわかります。


こちらは水浴び後の羽ばたきシーンです。飛翔シーンではないのでピント合わせは容易です。この手の鳥は水浴び後に必ずといってよいほどこのように羽ばたきを行ないます。水浴びをはじめたらチャンスと思って待ち構えます。SS1/500で適度に羽先にブレが入りました。

比較的距離のある群れの飛翔撮影では飛翔中にも電子マウントアダプタでのピント合わせが有効に機能します。距離が近すぎると群れ全体が画角に収まりませんので群れの飛翔の撮影はある程度距離があきます。一羽一羽の個体は小さくなるためマニュアルフォーカスでのピントの山は見辛くなってきます。電子マウントアダプタの使用による合焦音はピント合わせの補助として役立ってくれます。但し、距離が遠くなると野鳥と背景とのコントラストが相対的に低下するのと、フォーカスセンサーに占める野鳥の大きさが小さくなるためフォーカスエイドの精度は低下します。有効に機能するかどうかは背景に大きく左右されるように感じました。


ハマシギの小群の飛翔です。こういった鳥の飛行速度はとても速く、撮影はなかなか難しいのですが、スポーツ感覚のような面白みがあって海での撮影の醍醐味とも言えます。


こちらも猛スピードで通過するハマシギの群れです。SS1/2000。電子マウントアダプタによるピント合わせが有効に機能しています。


ミヤコドリの群れの飛翔シーンです。19羽が写っていますが、これぐらいの数のミヤコドリの群れになると比較的距離を大きくとらないと画角内に収まりません。距離が離れている分、導入、ピント合わせは落ち着いて行なうことが可能です。水平線の向こうの人工構築物はご愛嬌ということでご容赦を。


こちらの海の名物でもあるミユビシギの大群です。一眼用レンズのオートフォーカスなら難なく撮れるシーンかもしれませんが、125SDでもこのとおり。光の状態は逆光ではありませんが、背景の海面からの反射が強烈で逆光状態とあまり変わらない状況です。きらきら輝く海面がこのカットのポイントです。飛行速度が速く、群れ全体が画面を埋めつくしているのに加え、背景がきらめいているため、目視でのピントの山はつかみ辛い状況です。ここでも電子マウントアダプタによる合焦音がピント合わせの補助として役立ってくれています。


浜辺に佇むミユビシギの群れです。打ち寄せる波が雰囲気を盛り立てます。

この日は今回のモニターレポート用の写真の撮影のため、海で都合10時間を過ごしました。海に出かけた時は毎回、撮影枚数が普段よりもぐっと増えるのですが、この日もメモリー容量にして約20ギガバイト程度の撮影を行ないました。せっかくなので、もう少しお付き合いを願います。


カモメ類は空中静止することが多いので125SDでのマニュアルフォーカスでも比較的導入、ピント合わせが容易です。掲載のカットは若干後ピンになってしまいましたが、その分広げた翼の質感がよくでましたので掲載させていただきました。


黒く変身中のユリカモメです。空中静止から飛び込む直前です。

野鳥撮影におけるBORG 125SDの操作性をテーマにお届けした2回目のレポートでしたが、皆さんはどう感じられたでしょうか。総評としての私の忌憚なき感想を申し上げますと、飛翔撮影を代表とする動きのある撮影においては一眼用レンズに分が有るというのは否めないと思います。要となるのはマニュアルフォーカス時のピントリングの操作性の高さとオートフォーカスの恩恵でしょう。一眼用レンズはもとより撮影目的に専用設計されている訳ですから、これは当然のことともいえます。一方で構造がシンプルな天体望遠鏡は野鳥との距離が相当遠くともかなりの解像感を示してくれます。同じ焦点距離でもテレコンなしで750mmを確保できる点は素晴らしいです。そして、しっかりとした準備とある程度の技術を伴えば、125SDでも動きのあるシーンをしっかりと写しとることも可能であることが今回確認できたと思います。

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